債権回収(個人間)
友人や知人の苦しい状況を見かねて親切な気持ちでお金を貸してあげる方は多いのではないでしょうか。
その場合、なかなか借用書などの契約書を作成することは少ないかと思います。
お金の貸し借りでないにしても、友人や知人との間の金銭問題については、契約書等の書面を作成しないことが多いのではないかと思います。
そのため、書類などを作成しているわけではないことから、請求できないんじゃないかと不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
当事務所にも、そういった方からのご相談が多く寄せられます。
契約書などの書面がないから請求できない、ということはありません。
メールや手紙でのやり取り、銀行口座の取引履歴など、間接的であっても証拠が存在すれば、裁判所で貸し付け等の事実を認めてもらうこともできます。
しかし、注意が必要です。
時間がたてば経つほど、関係する資料は散逸してしまいます。
相手と連絡が取れなくなっていくことも少なくありません。
また、記憶もあいまいになっていくため、請求したい方自身が、いくら請求できるのかの認識が不明確になってしまう可能性があります。
消滅時効にも注意しなければなりません。
可能な限り早期に、弁護士に相談されることをお勧めします。
弁護士に相談したら依頼しなければならないんじゃないか
友人間で弁護士を通すなんてやりすぎじゃないか
そんなことは決してありません。
弁護士に相談しても、依頼するかどうかはじっくりお考え下さい。
依頼をしないとしても、弁護士に相談しておくことで、払ってくれなくなる将来に向けて、証拠等を確保していくこともできます。
消滅時効期間が過ぎて債務が消滅してしまわないよう、対策をお伝えできます。
まずはお早めにご相談いただければと存じます。
はじめに
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、個人間で売買したり、友人や親族にお金を貸したりしたけれど、相手方がお金を払ってくれない、返済してくれないという金銭問題に関するご相談を多くお受けしています。
個人間の金銭問題は、個人間の信頼関係や緊密な身分関係に基づくことが多く、契約書などの書類を取り交わしていないことが多数見受けられます。
売買契約や金銭消費貸借契約は、双方の当事者の合意(意思の合致)があれば契約として成立していますので、契約書などの書面がなくても問題はないのですが、後日、双方当事者の言い分が異なったりして紛争が生じてしまった場合には、当事者間で、どのような内容の契約が成立していたのかを書面によって証明することができません。相談を受けた弁護士としては、当事者間でどのような事実があったのかを確認することが、まずは第一ですから、契約書等の書面があればそれに基づいて過去の事実を推認することはできますが、それがない場合には、相談者からの詳細な事実の聴き取りが重要になってきます。
さらには、債権回収は時間との勝負です。
以下、債権回収の手続きをご紹介しますので、債権回収問題を抱え、相談や依頼をご検討とされる方にとって参考にしていただければ幸いです。
裁判外交渉
裁判外交渉か、法的手続きか
私たちが債権回収のご依頼を受けた場合、債務者に対して、受任通知を送付するとともに金員の支払請求を行います。受任通知とは、弁護士が債権者の代理人に就任したことを債務者に知らせる書面であり、以後の交渉は弁護士と債務者(債務者に代理人が就任すればその代理人弁護士)が行うことになります。
裁判外交渉を行うのか、法的手続きを行うのかを一義的に判断することは難しいのですが、通常、以下の事情を総合的に考慮して判断することになります。
➀債務者に支払意思があるのか、②債務者が協議に応じる人物なのかどうか、③債務者に財産があるのかどうか、④債権者が債務者の財産をどの程度把握しているのかどうか、⑤法的手続きを執った場合における立証可能性の問題などを踏まえて判断することになります。
相殺
相殺とは、当事者双方が互いに同種の目的を有する債務を負担している場合にその対当額について相殺の意思表示をすることでその債務を免れることができます。なお、相殺する者は自分の債務については期限の利益を放棄し弁済期前に返済することができるため、弁済期は自働債権(相殺する方が相手方に有している債権)について到来していれば足ります。
民法505条
1 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
代物弁済
代物弁済とは、債務者が、債権者の同意を得て、その負担した給付に代えて他の給付することで債務を消滅させる法律行為です。例えば、金員を返還しないといけない場合に、動産、不動産や債権など他の財産を給付することで債務を消滅させることをいいます。
なお、代物弁済は、特に指定しない限り、給付された物の価格にかかわらず債権全部が消滅しますので、本来の債務額と給付された物の価格が不均衡である場合は、代物弁済によって消滅する債務の範囲を定めておくことをお勧めします。
また、不動産所有権の譲渡をもって代物弁済する場合、債務消滅の効力が生じるには、原則として、単に所有権移転の意思表示をしただけでは足りず、所有権移転登記手続きの完了を要します。
民法482条
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
裁判外交渉を経ての合意方法
任意に合意した内容の書面を締結する。
簡便ですが、相手方が合意した内容を再度履行しないリスクがあります。再度、履行しなかった場合は、強制執行を見据えた法的手続きに移行することになると思われます。
公正証書を作成する。
公正証書とは、中立的立場かつ法律の専門家である公証人が作成する書面で、各条項も公証人が作成しますので、疑義が生じにくい内容が担保されています。
そして、公正証書には、通常、強制執行認諾文言を付すことが多く、同文言の記載によって、金銭債権については執行力のある債務名義を得たこととなり、裁判手続きを執ることなく強制執行が可能となります。
なお、公正証書によって強制執行が可能なのは、金銭の支払債務に限られます。
即決和解手続きを執る。
訴え提起前の和解は、民事上の争いのある当事者が判決を求める訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解の申立てをし、紛争を解決する手続です。
当事者間に合意があり、かつ、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し(当事者双方の出廷が必要になります。)、合意内容が和解調書に記載されることにより、確定判決と同一の効力を有することになります。
和解調書は確定判決と同一の効力を有しますので、金銭債務以外の執行も可能となりますので、不動産の明け渡し事案で利用されることが多いと思います。
法的手続き
保全手続き
仮差押え
仮差押えとは、債務者に対して金銭債権を有している債権者が、後々の強制執行を見据えて、債務者がその責任財産を隠匿や散逸させないように、あらかじめ債務者の責任財産の処分や現状変更を禁止しておく手続きになります。
仮差押えの対象については、債務者が所有している不動産、動産、債権になりますが、動産は差押禁止財産との関係や財産的価値が僅少である場合が多いことからあまり多く利用されておらず、実務上は、不動産と債権に対する仮差押えが多く利用されています。
差押禁止動産は、民事執行法において定められています。例えば、➀債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具、②債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料、③標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭(66万円)等です。
また、差押禁止債権として、以下に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならないと定められています。
① 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
② 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
③ 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。
なお、債権者が請求する請求権が養育費などの扶養義務に関する定期債権である場合には、手取り額の2分の1が差押え禁止財産となります。
占有移転禁止の仮処分
占有移転禁止の仮処分とは、係争物に対する占有という事実状態の変更を禁止するもので、強制執行の実効性を高めるため、当事者を恒定する効果を有します。例えば、不動産の明け渡し請求を実現するためには、通常、訴えを提起し、その後判決を獲得し、その判決に基づいて強制執行することになります。しかし、裁判を提起しても口頭弁論終結時(当事者双方が主張立証を行い、審理を終えるまで)に被告が係争物の占有を移転してしまうと、原告は被告を変更しなければなりません。このような迂遠な手続きを避けるために、訴えを提起する前に占有移転禁止の仮処分を得ておくことで、以後、占有が移転されてもそのまま訴訟を継続して請求を認容する判決を獲得すれば、一定の第三者に対しても強制執行できるとするものです。
仮の地位を定める仮処分
仮の地位を定める仮処分は、争いのある権利関係について現に債権者に生ずる著しい損害や急迫の危険を回避するため、暫定的に必要な措置を命じる手続きです。
実務では、労働事件(①労働契約上の地位を有することを仮に定める旨の地位保全仮処分、②賃金の仮払いを命ずる内容の賃金仮払い仮処分)で利用されることが多いと思います。
民事調停
簡易裁判所にて、調停委員の関与のもと協議を行う手続きになります。
裁判外では、当事者同士のこれまでの経緯や感情の対立により交渉が難航しがちですが、協議の場に調停委員という中立的立場の第三者を関与させることで、当事者同士が冷静になり協議が進む場合があり、協議の内容(分割払いや支払時期、担保の提供の要否など)としても、柔軟に話し合うことができます。
支払督促
支払督促手続きは、債権者によってなされる書面による申立てのみで、債務者の立会いなしに、金銭給付の債務名義が取得することができる手続きとなります。
支払督促手続きは、債権の存在について争いがなく、異議の申立てがなされないことが見込まれる場合において、簡便に債務名義を取得することができることになります。
なお、債務者から異議の申立てがなされた場合は通常訴訟に移行することになります。
訴訟提起
訴訟提起により判決を得ることで事件解決に関して一定の結論を導くことができます。
ただし、訴訟係属中であっても、裁判所から和解を勧められることは多々あります。
訴訟上の和解は、訴訟係属中に、当事者が紛争を終結させるために、相互に譲歩しあって合意により紛争を解決する訴訟行為になります。訴訟上の和解が成立すると、確定判決と同一の効力を有する和解調書が作成されます。
訴訟上の和解のメリットとしては、➀早期に紛争が解決できる、②双方の合意による解決手続きであるため、事件を柔軟に解決することができる、③被告から金員支払が履行される可能性が高いなどが挙げられます。
一方のデメリットとしては、和解が当事者の合意が前提となる手続きであることから、当事者の意思表示に何らかの瑕疵があれば、和解の効力自体が争われる可能性があることが挙げられます。
訴訟上の和解における「本件に関し」という文言
和解条項に「原告と被告との間には何らの債権債務がないことを相互の確認する」という条項を入れることがあります。これは包括的清算条項といい、当事者間で紛争を終結させて、その後に再び紛争が起きないようにするための規定です。
一方で、上記和解条項に「本件に関し」という文言を入れるケースもあります。同文言を入れるかどうかですが、原告と被告との間に、訴訟の対象となった事件以外に別の事件が潜在化している場合において、後に別の事件についても、何らかの手段を用いて責任追及する意向がある場合に入れることになります。
強制執行
強制執行手続きを執れば、債務者の責任財産から債権の回収を図ることができます。
ただし、債務者がどのような財産を保有しているのかについては、債権者において把握しておかなければなりません。
先般、債務者の責任財産を把握する手続きに関して、法改正(令和2年)がありましたので、その手続きについて、紹介します。
財産開示手続き
財産開示手続とは、強制執行の申立てを予定している債権者が、債務者本人もしくは第三者機関に対して、債務者の財産に関する情報の提供を求めることのできる手続です。
同手続きは、平成15年に導入された手続きであったのですが、債務者が開示に応じなかった場合の制裁が軽く、実効性に欠け、あまり利用されていませんでした。
しかし、令和2年改正により、債務者が財産開示期日への出頭に応じなかった場合や、裁判官からの質問に虚偽回答や回答拒否した場合の罰則が、6月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が設けられました。刑事罰の制裁があるがゆえに、債務者が誠実に財産の有無、内容を開示することが期待されています。
また、債務者以外の第三者機関が保有している情報の提供を求めることができる制度も新設されました。
以上のとおり、債権者にとって、金員を回収することができるかどうかは最大の関心事であると思われます。
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、多くの債権回収事件を扱っています。抱えている金銭問題が債権回収事件になった場合や、金銭問題でお困り事がある場合には、当事務所までご相談下さい。
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、初回相談料無料にてご相談させていただきます。