労使問題(従業員側)

当事務所には、以下のような相談が数多く寄せられております。

些細なミスで退職するように迫られている

上司からの叱責がひどく精神的に滅入っている

休みの日にも出勤するよう言われている

経営状態が悪いからと残業代を支払ってもらえない

セクハラを受けている

労働問題の解決のためには様々な手段があります。
労働基準監督署への相談、労働局のへあっせん、民事調停、労働審判、訴訟などが例です。
問題の程度や勤務を継続するのかどうか、社内に味方がいるか、精神的にどの程度参っているかなど、様々な事情によって、どのような手段が適切かの判断は人により変わってきます。
しかし、その判断は非常に専門的であり、特に苦しい状況にある方が一人で判断するのには困難を伴うケースが多くあります。

当事務所では、多くの労働問題を扱っておりますので、その経験を踏まえ、現在抱えている問題に対し、どのようなアプローチが適切かをアドバイスさせていただきます。
まずは一度ご相談ください。

労働者とは

労働法規における労働者

ア 労働基準法上の労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されています(労基法9条)。

イ 労働契約法上の労働者は、「使用者に使用されて労働に従事し、賃金を支払われる者」と定義されています(労契法2条)。
なお、労働契約法と労働基準法の労働者は、「事業又は事務所に使用される」という要件を除けば、その内容は一致していると考えることができます。厚生労働省の通達においても、労働契約法上の労働者の判断は、労働基準法上の労働者の判断と同様の考え方であるとされています。

ウ 労働組合法上の労働者は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されています。

裁判における労働者性の判断要素

指揮監督下の労働の有無

➀ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無が考慮され、諾否の自由があれば指揮監督関係を否定する事情になり、労働者性が否定される事情になります。
② 業務内容及び遂行方法に関する指揮命令の有無
③ 場所的・時間的拘束性の有無
勤務場所や勤務時間が指定、管理されていることは、一般的に指揮命令関係を肯定する事情になります。
④ 代替性の有無
労務提供者本人に代わって他の者が労務提供することが可能であったり、本人の判断で他の補助者を使用することが許されている場合は、指揮監督関係を否定する事情になります。

報酬の労務対償性の有無

報酬が、労務提供の時間を基礎として計算され、その結果による増減が小さい場合は、当該報酬は、使用者の指揮命令に従った労務提供の対価とみることができます。

その他、労働者性を補強する事情

労務提供における機械、器具の提供の負担関係などを考慮し、労務提供者が自身で器材や器具等の負担をしている場合には事業主としての性格が強くなり、労働者性が否定される事情になります。

採用内定

採用内定と内定取り消し

採用内定とは、企業等への採用が決定し、正式入社するまでの関係を指す。内定の法的性質は、始期及び解約権留保を付した労働契約の成立と考えられています。過去の裁判例では、内定は「採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれている」を判断しています。

採用内定取り消し

採用内定は、始期付解約権留保付労働契約と解される場合、内定取り消しは、使用者による解約権の行使、つまり、解雇に該当し、留保解約権の行使の適法性が問題とされることがあります。
結論から申し上げますと、使用者からの一方的な理由がない内定取り消しは認められず、留保解約権の行使が適法と認められるのは、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られます(最二小判昭和54年7月20日など)。一般的には、採用内定通知書または誓約書に記載された取消事由を参考にして判断され、学校を卒業できなかった場合、重大な経歴詐称があった場合、健康診断で業務に耐えられない程度の重大な異常が判明した場合、犯罪を犯した場合などは内定取り消しが認められると考えられています。
一方で、使用者の経営状態の悪化を理由とした内定取り消しは、整理解雇の法理を踏まえて、その適法性が判断されます。
整理解雇の法理とは、➀整理解雇の必要性の有無、②解雇を回避するための努力の有無、③解雇者の人選基準や人選に合理性があるか、④解雇手続きに妥当性があるかという4要件と充足しない限り、整理解雇は解雇権の濫用として無効となる理論です。

採用内定取り消しが無効となった場合

採用内定取り消しが、解約権の濫用と判断された場合、当該採用内定取り消しは無効となりますので、労働者は、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、使用者に対して、賃金の請求が可能となります。

試用期間について

多くの会社は、正社員としての採用前に、入社後の一定期間を試用期間として設け、同期間中に正社員としての適格性を評価し、本採用するか否かを判断します。
試用期間中の労働契約は、採否決定までの段階では十分調査できない資質、性格、能力について、さらに観察、調査した上で、最終的な採否を決定するための解約権付きの労働契約と解されています(最大判昭和48年12月12日参照)。

本採用拒否について

そうすると、試用期間後の本採用拒否は、労働契約に留保された解約権の行使に当たります。同解約権の行使は、正社員の普通解雇に比べると、使用者に裁量の幅が認められる余地があるが、解雇であることに変わりないから、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認された場合のみ許される。なお、この客観的合理的理由の判断においては、労務提供者が既に労働に従事していることに鑑みて、労務提供が行われていない内定取り消しの場合よりは厳格に判断されるとされています。
過去の裁判例では、新卒採用者の場合、技能や能力は勤務を継続することで習得が予定されていることから、単に平均よりも勤務成績不良、労働能力が低いというだけでは解約権の行使は認められず、能力の低さの程度や改善の見込みが厳格に判断されることになります。

試用期間の延長はできるのか

試用期間の延長は、就業規則などで延長の可能性及びその事由、期間などが明記されていない限り、法的拘束力はないと考えられています。

試用期間の経過

試用期間が満了した場合、格別の意思表示なくして留保解約権なしの通常の労働契約に移行すると解されています。

賃金

労働基準法上の賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」といいます(労基法11条)。

賃金カットの可否

欠勤・遅刻による不就労と賃金カット

労基法24条は、賃金は全額支払わなければならないと定めていますが、この定めは、労働者が債務の本旨に従った労務を提供したことによって生じた賃金についてはその全額を支払わなければならないことを定めたものであり、労働者が不就労の場合まで不就労期間に応じた賃金の支払義務を使用者に対して負わせるものではありません。したがって、労働者が遅刻や欠勤で就労しなかった場合は、不就労時間分の賃金はカットすることが可能です(ノーワーク・ノーペイの原則)。

労務不履行と賃金カット

労務の不履行に関して、使用者及び労働者双方の責めに帰すことができない事由による履行不能の場合は、債権者(使用者)には反対債務の履行拒絶権が認められ、他方、使用者の責めに帰すべき事由による履行不能の場合には債権者には反対債務の履行拒絶権が認められないことになります。
労務の履行不能に関して、使用者の責めに帰すべき事由がない場合には、労働者の賃金請求権は認められないことになります。

【賃金請求権の否定事例】
• 出張・外勤命令を拒否して内勤業務に従事した場合は、労務の提供が債務の本旨に従ったものではないため、労働者の賃金請求権は認められない。
• 社内で提出が義務付けられていた報告書を提出しないままでの就労申出は債務の本旨に従った労務の提供とは評価されないから、使用者が就労を拒否しても賃金支払義務は負わない。

【賃金請求権の肯定事例】
• 労働者が病気のためその命じられた業務の一部の労務提供ができなかった場合であっても直ちに債務の本旨に従った労務提供をしなかったと断定することはできないとして、賃金請求権を肯定。
• 使用者の発した業務命令について、業務上の必要性に乏しく、かつ、使用者の安全配慮義務を尽くすものではなかったことから同命令が違法と評価された場合は、実質的には労働者の労務提供の受領を拒絶するものであった場合に賃金請求権を肯定。
• 労働者が配転命令の有効性に疑念を抱いたことにつき無理からぬ事情がある場合の配転先での就労拒否であっても、使用者が配転理由の説明を頑なに拒否するなど配転命令に従わせる真摯な努力を怠った結果と評価できる場合は使用者の責めに帰すべき事由に該当し、労働者の賃金請求権を肯定。

就業規則の不利益変更

労働契約法の定め

(就業規則による労働契約の内容の変更)

第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

最高裁判例(最二判平成9年2月28日民集51巻2号705頁)

過去の判例では、就業規則の不利益変更に関して、「変更の合理性」があることを要件としてその拘束力を肯定する理論を打ち出し、その合理性の判断要素として、➀就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、②使用者の変更の必要性の内容、程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善の状況、⑤労働組合等との交渉経緯、⑥他の労働組合または他の従業員の対応、⑦同種事項に対するわが国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである旨判示しました。

降格

降格には職位や役職を引き下げるものがあるところ、職位や役職を引き下げることは、就業規則の根拠規定がなくても、人事権の行使として裁量的判断により可能と考えられています。ただし、その裁量が無制限に認められることにはなりません。その裁量権行使が、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用と認められる場合には、違法無効とされます。
裁判例において、人事権濫用を基礎づける事情としては、➀使用者側における業務上・組織上の必要性の有無、その程度、②能力、適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無、その程度、③労働者の受ける不利益の性質、その程度等の諸事情を総合考慮して、使用者が裁量の範囲を逸脱しているかを判断していることが多いと思います。

一方で、➀職能資格制度上の資格や②職務等級制度上の等級を低下させることは、会社の一方的措置では行えないとされています。
まず、➀職能資格制度における降格については、上記⑴の職位や役職の引き下げとは異なり、使用者及び労働者の合意が必要となりますが、双方の合意がない場合は、別途、職能資格制度について定めた就業規則などに、引き下げがあり得ることを明記するなどして、労働契約法上の根拠が必要になります。なお、就業規則を労働契約上の根拠とするためには、就業規則の要件(周知性及び合理性)を満たさなければなりません。
さらに、就業規則上の根拠等があっても、その降格処分が権利濫用となりうる場合があることは上記⑴と同じです。
次に、②職務等級制度における降格については、職務等級制度が成果主義的賃金制度として属人的な要素(勤続年数、学歴、年齢など)を考慮することなく、職務内容の価値を評価する格付け(等級と職務内容が対応する関係を有する。)がなされるため、人事権に基づく降格が有効であれば、等級引き下げも有効と考えることができます。
ただし、等級引き下げには賃金減額が生じることから、職務等級の変更のみならず職務等級変更に伴う賃金減額についても、就業規則上で定めておくことが必要と解されています。

労働問題

労働問題は、採用内定に始まり、就業過程においても様々な法的問題が生じかねない事案と考えます。今回、記事にしなかった未払賃金等問題、ハラスメント問題、懲戒処分問題、退職・解雇問題、労災問題なども紛争になりやすい事案と考えます。
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、様々な事件累計を取り扱う中で労働問題事案に接することが少なくありません。労働問題に関する事件に巻き込まれた場合、弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所にまでご相談下さい。
山本・坪井綜合法律事務所では、初回相談料無料にてご相談させていただきます。

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