過払金返還請求
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、債務整理、過払金返還請求に関し、多くの案件を取り扱っています。
今回は過払金返還請求について、お話します。
過払金返金請求事件の沿革
2010年(平成22年)前後、テレビCM等で「過払金返還請求」を勧める法律事務所の広告が多く流れました。
平成22年より以前は、貸金業者からの借入れについて、20%を超える利息がついていたことが多くありました。これは出資法の上限金利が29.2%と設定されており、当該上限を超えていなければ刑事処罰の対象とならなかったからです。確かに、利息制限法でも利息の上限は定められていましたが、利息制限法の上限を超えていたとしても、刑事処罰の対象にならなかったので、貸金業者は、利息制限法と出資法との間にある金利を設定していました。この利息制限法と出資法との間の金利が、いわゆるグレーゾーン金利と呼ばれていました。
しかし、平成22年6月に改正出資法が施行された関係で、出資法の上限金利が利息制限法の上限金利まで引き下げられたため、グレーゾーン金利は無くなりました。
出資法が改正されたとしても、グレーゾーン金利で支払った部分は、そのまま放置していると、過払状態のまま維持されます。しかし、債権者は、過払部分を受け取る法的根拠を有していません。
そのため、過払い金を支払っていた債務者は、消滅時効にかからない限り、返還を請求することができるようになりました。
過払金返還請求について
過払金返還請求訴訟とは
利息制限法所定の制限を超える金銭消費貸借上の利息・損害金を支払った債務者が、上限を超過して支払った部分の充当によって計算上元本が完済となっていたときは、その後に債務が存在しないことを知らないで支払った金額(過払金)の返還を請求することができます。法律の根拠は、民法703条になります。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
過払金の計算方法
過払金を算定するために下記の計算等をする必要があります。
ア 引直し計算
貸主と借主の間の金銭消費貸借契約は、もともとグレーゾーン金利での約定利率により利息等が計算されたものになるので、これを改正出資法に従った制限利率による利息に計算し直す必要があります。これを引き直し計算といいます。
イ 冒頭ゼロ計算
貸主は取引履歴の開示義務を負います。そのため、貸主が取引履歴の全部を開示しない、できない場合に、借主は、履歴の開示された最初の時点の借入金残高を0円として過払金額を算定することが許容されています。これを、冒頭ゼロ計算といいます。
もっとも、裁判実務上は、借主の方に当初の借入額が0円であることの証拠提出を求める傾向があります。
ウ 取引の一連性・分断
同じ貸主と借主との間で、継続的に借りたり、弁済したりを繰り返している場合、厳格にいえば借りる度に「一つの消費貸借契約」が成立することになりますが、実務上、長年にわたり同様の方法で反復継続して貸付がなされている場合には、実質的にはまとめて「一個の取引」として、取引の一連性が認められることがあります。
その一方で、取引が途中で一度長期間中断し、その後再開した場合には取引の一連性が否定されることもあります。これを取引の分断といいます。また、それぞれの契約の性質が大きく異なる場合も、一連性が否定されます。
なお、裁判例は、第1の債務が完済された後に第2の契約に基づく取引が開始された場合でも①第1の契約に基づく貸付及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間の長さ、②第1の基本契約についての契約書の返還の有無、③借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその執行手続きの有無、④第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでのあいだにおける貸主と借主との接触の状況、⑤第2の基本契約が締結されるに至る経緯、⑥第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異動等の取引の実態を重視して、第1の契約と第2の契約に一連性があるか判断する旨述べています。
エ 一連の取引中の他の借入金債務への充当
過払金は、一連の取引中の他の借入金債務に充当されます。その結果、借主は、その残額を、本訴訟で請求します。
オ 基本契約を同じくする他の取引中の借入金債務の充当
過払金発生時又はその後に、基本契約を同じくする他の取引中の借入金債務がある場合、過払金は、他の借入金債務の弁済に充当されます。
カ 約定の元本及び利息の支払額を超過する支払
約束した元本及び利息の支払額を超過する支払については、その時点で残存している残債務の弁済として充当され、将来発生する債務に充当されることはありません。
過払利息
ア 過払利息とは
そもそも、貸主は、過払金を取得する法的権限を有していません。そのため、法的根拠のない利得を得ている貸主に対して不当利得の返還を請求していくのが、この過払金返還請求なのですが、貸金業者が過払金であることに悪意であれば、つまり過払金と分かって受け取っていた場合にはその利息も請求することができます(民法704条前段)。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
イ 利息の始期
過払い金の利息の始期は、過払い金の発生時になります。
ウ 利息の計算
実日数に基づいて計算されます。そのため、うるう年についても、365日として計算する旨の特約が貸主と借主の間で成立していたとしても、当該特約は過払金に対する利息には適用されません。
エ 一連の取引中の他の借入金債務への充当
過払金に対する利息は、過払金と同様に、一連の物と判断された取引中の他の借入金債務に充当され、その残額が本訴訟で請求されることになります。
本訴訟の手続
1 大原則として裁判で請求する金額が金140万円以下である場合には、その裁判は、簡易裁判所に係属します。また、裁判で請求する金額が金140万円を超える場合には、その裁判は、地方裁判所に係属することになります。そして、訴訟を提起する原告は、基本的には1人で訴訟提起することになり、他の人と同時に訴えを起こすにしても、裁判で請求する金額を合計した上で、その金額が140万円を上回るか否かで裁判所が地方裁判所となるか簡易裁判所となるかを決めることはありません。
しかし、過払金返還請求の場合には、同一の貸金業者と取引をしている複数の債務者らが、まとまって共同原告となって、特定の貸金業者を被告とする過払金返還請求訴訟を合わせて起こし(併合提起し)、その返還を求める金額の合計が金140万円を上回る場合には、簡易裁判所ではなく地方裁判所を管轄とすることが認められています。
2 貸金業者の本社及び全部の営業店所在地の管轄裁判所を合意管轄裁判所とする、いわゆる「管轄合意」がされている場合でも、借主の不利益を考慮し、「営業店」を「当該債務者との取引業務を行った営業店又は当該債務者の住所地の最寄りの営業店」に限定する運用がなされています。
3 支配人が訴訟を代理できるか
支配人として登記されていたとしても、当該営業所の営業に関する包括的な代理権を有していない者には、過払金返還請求訴訟の代理権は認められません。
4 訴訟手続きにおいて、充当計算等当該訴訟の結論として考えられる複数の計算結果は、当事者双方が主張・検算をし、貸主と借主との間で、争いがない事実としておきます。
5 期日の延期、休止
まず、多数の貸主をまとめて訴訟をする場合、最初の裁判の期日(第1回口頭弁論期日)を延期して、その間に裁判外で示談をし、判決によって終了する貸主が確定した時点で、2回目の裁判の期日(第2回口頭弁論期日)を開催し、訴状等を一括して陳述させる扱いもあります。
また、訴訟をする一方で、裁判の流れの外で、示談が成立した場合には、その後、借主が裁判所に出頭しないことがあります。このような場合には、裁判は維持されたまま、裁判が放置されてしまう危険性があるため、示談による入金の後に訴えの取下げ擬制が生ずるようなタイミングで、裁判の日を休止とすべきです。
6 取引履歴の文書提出命令 貸主が任意で取引履歴を開示しない場合があります。そのような場合には、借主は裁判所に対して取引履歴の文書提出命令を申し立てます。もっとも、取引履歴の文書提出命令を申し立てる場合には、「証明すべき事実」を明らかにする必要があります。この点、過払金返還請求訴訟においては、取引履歴の文書提出命令を求める場合、記載すべき「証明すべき事実」は、開示を求めている借主と取引履歴の期間が特定できる程度の記載があれば十分です。
7 付調停
訴訟は、裁判官が双方当事者の主張と証拠をもとに事実が何か、法的評価はどうなるか等といった点を判断します。一方、調停は、訴訟と同様に裁判所でなされる手続きではありますが、双方当事者の間に、裁判所の調停委員が立って、和解ができるよう話し合いをしていきます。
そのため、訴訟を提起した場合でも、調停に付す(調停に変更する)ことで対応することもあります。
8 簡略判決の利用(民事訴訟法280条)
貸主が裁判において特段積極的に証拠を提出しないような場合には、判決書の記載を大幅に簡略化することがあります。
訴訟における当事者の争いについて
1 法的根拠
借主は、過払金返還請求をする際には、上で述べたように、不当利得に基づく利得金(過払金)の返還を請求します。また、それにあわせて、民法704条前段に基づく利息も請求します。
2 請求する金額について
最後に返済等をした最終取引日における過払い金と過払利息の合計額を請求します。また、過払い金に対する最終取引日の翌日から支払済みまでの利息を合わせて請求することが多いです。
3 借主が裁判上主張すべきこと
借主は、裁判官に対して、①金銭消費貸借取引をしていたこと、②借主が貸主に対して、①に基づいて、利息制限法所定の制限を超える利息・損害金を支払った事を、証拠をもとに主張していく必要があります。
4 貸主が裁判所する反論について
(1) 消滅時効
一連の取引の終了日が消滅時効の起算点になります。たとえば、貸主と借主の最後の取引内容が弁済であるとき、最後の弁済のときが消滅時効起算点となります。そして、その時点より消滅時効の期間が経過し、貸主が消滅時効を援用すると、時効消滅してしまいます。つまり、借主は、貸主に対して、これ以上過払い金の返還請求をすることができなくなります。
(2) 相殺
貸金業者が、借主との別個の取引による貸金債権と相殺する場合があります。
(3) みなし弁済
以下の条件を満たす場合、制限利率を超える利息等の受領が認められていたものとされます。そのため、貸主は、過払金の返還を拒むことができます。
① 貸金業者が当該消費貸借契約締結時に「貸金業者」であったこと
② ①の契約は、貸主が業として締結したものであること
③ 借主からの弁済が利息等として任意に支払ったものであること
④ ①の契約締結の後、貸金業者が、借主に、遅滞なく、貸金業法17条所定の契約書面を交付したこと
⑤ 借主の弁済の時、貸金業者が借主に対し、直ちに、貸金業法18条所定の受取証書を交付したこと
③の、任意に支払うとは、借主が、利息等の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことをいいます。
④の貸金業法17条所定の契約書面とは、貸金業法17条の規定により、貸金業者が金銭消費貸借の契約時に交付を義務付けられている書面のことをいいます。そして、下記の事項は記載すべきことが法律で決められています。裁判例は、これらの記載については、正確かつ明確に記載されなければならないと判断しています。
・貸金業者の商号、名称または氏名及び住所
・契約年月日
・貸付の金額
・貸付の利率
・返済の方式
・返済期間及び返済回数
・賠償額の予定に関する定めがあるときは、その内容
・その他、内閣府令で定める事項
⑤について、利息の支払が貸金業者の預貯金口座への振込みによってされた場合であっても、特段の事情がない限り、貸金業者は、払い込みを受けたことを確認した都度、直ちに18条書面(受取証書)を債務者に交付しなければなりません。
結語
以上のように、過払金の返還請求という言葉は、CM等でよく聞く言葉かもしれませんが、本人で解決するのはやはり困難です。
弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスでは、取引履歴の取り寄せや過払金の計算など、過払金返還請求の代理業務をお引き受けしています。
初回のご相談は無料です。借金をなさったことがある方、2007年以前に借り入れをして最後の弁済時期から10年以上経過していない方等は、一度、山本・坪井綜合法律事務所までご相談下さい。