弁護士ブログ
2023/10/31
「年収の壁」って?
アルバイトやパートなどの労働者の働き控えにつながっている「年収の壁」が問題となっています。
「年収の壁」とは、アルバイトやパートの労働者の年収が一定の額に達すると、税金や社会保険の保険料を給与から差し引かれるようになります。このため、あえて働く時間を抑えるなど、就業に自らブレーキを掛ける方が多くおられるのが、現状です。
「年収の壁」について、どのような壁があるのか、お話します。
1 「収入」と「所得」の違い
・ 「収入」とは、給与や賞与、年金などあらゆる源泉で得られる金額のことで、税金や社会保険料を差し引いた後の手取りの金額ではなく、差し引く前の総支給額のことです。会社員やアルバイト・パートの方は、給与収入と言います。また、個人事業主や店舗経営者の場合は、事業で得た「売上」のことを指します。
・ 「所得」とは、収入から経費や所得控除を引かれて残る金額のことをいいます。会社員やアルバイト、パートの方であれば、経費精算をすることは、ほとんどないと思いますが、年収に応じて定められた「給与所得控除」を引いた後の金額を「給与所得」といいます。
・給与所得=収入金額−給与所得控除
・事業所得=総収入金額−必要経費
2 住民税・所得税
住民税とは、「地方税」で、一律10パーセントの税率です。
所得税とは、「国税」で、累進課税制であることから、所得金額に応じて税率が変動します。その年の所得から計算され、年末調整や確定申告で清算されます。
3 社会保険制度
社会保険制度には、健康保険・厚生年金保険・雇用保険があります。これらの保険は、働く人が安心して働けるように、病気やケガ、失業などのリスクに備えるための制度で、
・勤務先企業の従業員数が101人以上
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金8万8,000万円(年収106万円)以上
・2か月以上の雇用期間が見込まれる
・学生でない
などの要件に該当すると社会保険の加入が義務付けられます。
4 年収の壁の種類
年収の壁には、税制上の壁と社会保険上の壁の2種類があります。
⑴ 税制上の年収の壁には、
・100万円、103万円、150万円、201万円
の4種類があります。
⑵ 社会保険上の年収の壁には、
・106万円、130万円
の2種類があります。
① 100万円の壁
アルバイトやパートをしていて給与収入がある人は、年収が100万円を超えると一般的に住民税が掛かります。
住民税がかかることで手取りが減ることから、年収100万円前後の方は、100万円以下に抑えられているようです。
② 103万円の壁
アルバイトやパートをしていて給与収入がある人は、年収が103万円を超えると一般的に所得税が掛かります。つまり、103万円を超えることで、所得税と住民税が掛かることとなります。
また、配偶者の給与に配偶者手当(家族手当)が含まれている場合は、妻の年収が103万円を超えると支給しないと定められているケースがあるため、注意が必要です。
③ 106万円の壁
学生ではない社会人の主婦(夫)やフリーターの方が関係します。
一般的に給与収入の年収が、106万円を超え、
・勤務先企業の従業員数が101人以上
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金8万8,000円(年収106万円)以上
・2か月以上の雇用期間が見込まれる
・学生でない
などの要件に該当すると、社会保険の加入が義務付けられます。
配偶者や親などの扶養に入っている人は扶養から外れることとなります。
④ 130万円の壁
前記の5つの要件を満たしていなくても、年収が130万円を超えると配偶者
や親から扶養から外れ、自分で健康保険料と年金保険料を支払う義務が生じま
す。
⑤ 150万円の壁
年収が150万円を超えると、収入が増えるにつれて配偶者特別控除の額が段階的に減っていきます。
⑥ 201万円の壁
年収201万円を超えると配偶者特別控除額がゼロとなります。
年収の壁を越えることで、税金や健康保険料や年金保険料などを支払わなくてはならず、自分の収入が減るのみではなく、配偶者や親の収入が減ることとなります。
しかし、自分で厚生年金などに加入することで、将来の年金額を増やせるなど、社会保険への加入のメリットも少なくありません。
厚生労働省では、この問題について、手取り額が減らないように社会保険料の負担を肩代わりするなど、いろいろな支援策が検討されています。
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