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2024/12/04

交通事故の加害者の刑事責任について

第1 はじめに

弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスの弁護士坪井智之です。
近年、安全装備や自動運転技術の開発が進められ、自動車はより安全な乗り物になってきています。しかし、まだまだ事故のリスクをゼロにするには至っておらず、残念ながら誰でも交通事故の当事者になる可能性があります。
もし交通事故の加害者となってしまった場合は刑事責任を問われる可能性がありますが、どのような刑事責任が発生しうるかを把握しておくことで、刑が重くなるリスクを減らすことができます。
そこで今回は交通事故の加害者の刑事責任について詳しく解説しようと思います。

第2 交通事故の加害者の刑事責任

1 過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転死傷処罰法」という)5条)
まず、過失によって事故を起こした場合には7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科されます。ただし、被害者の怪我の程度が軽い場合は、情状により刑が免除される場合があります。
なお、無免許運転だった場合には刑が10年以下の懲役に加重されます(自動車運転死傷処罰法6条4項)。

2 負傷者の救護と危険防止の措置義務違反
交通事故を起こした場合、運転者は「直ちに車両等の運転を停止」して、「負傷者を救護」し、「道路における危険を防止」する等必要な措置を講じなければなりません(道路交通法72条1項前段)。そして、死傷者がいるにも関わらず、これらの措置を行わなかった場合(いわゆるひき逃げ)には10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(同法117条2項)。

3 事故報告義務違反
また、交通事故を起こした運転者には、警察官に対して、事故の日時や死傷者の有無等を報告する義務もあります(同法72条1項後段)。この義務に違反した場合は3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」が科されます(同法119条17号)。

4 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条)
危険な運転をし、事故を起こした場合には危険運転致死傷罪が成立します。危険な運転とは、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」(1号)や「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」(4号)などで、8つの行為が定められています。
これらの行為は単なる過失とは違い悪質性が高いため、過失運転致死傷罪と比べ重い刑が科されます。具体的には、人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役が科されます。なお、「1年以上の有期懲役」とは「有期懲役は、一月以上二十年以下とする。」(刑法12条1項)とあることから、1年以上20年以下の懲役という意味になります。
また、過失運転致死傷罪と同様に、無免許運転だった場合の加重規定があります(自動車運転死傷処罰法6条1項)。

5 飲酒運転
(1)飲酒運転に対する処罰は少し複雑です。まず、そもそも飲酒して運転すること自体が処罰の対象となります。

ア 酒酔い運転
「酒に酔った状態」で車を運転した場合は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(同法117条の2第1項1号)。「酒に酔った状態」とは、言語動作が不明瞭、歩行が揺れるなど正常な運転ができないおそれがある状態を言います。

イ 酒帯び運転
「酒に酔った状態」でなくとも、基準以上のアルコールを身体に保有して車を運転した場合には、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(同法117条の2の2第1項3号)。基準以上のアルコールを身体に保有している状態とは呼気1ℓ中0.15mg以上のアルコールが検出される状態をいいます。

(2)そして、飲酒運転をした上で事故を起こした場合は3つのパターンに分かれます。

ア 飲酒により、「正常な運転が困難な状態」で運転をし、事故を起こした場合
この場合は前述のとおり、危険運転致死傷罪が成立します。

イ 飲酒により、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で運転をし、運転中に「正常な運転が困難な状態」に陥り、事故を起こした場合
この場合で、人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷処罰法3条1項)。最初から「正常な運転が困難な状態」ではなかった分だけ、危険運転致死傷罪と比べ、処罰が軽くなっています。

ウ 飲酒により、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で運転をしたが、運転中に「正常な運転が困難な状態」には陥らず、単に事故を起こした場合
この場合は、過失運転致死傷罪が成立するにとどまります。(もっとも、酒酔い運転、酒帯び運転で別途処罰される可能性はあります。)
ただし、「アルコール…の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」で、更にアルコールを摂取する、水を飲むなどの行為をした場合は、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車運転死傷処罰法4条)が別途成立します。科刑は12年以下の懲役となっていますが、過失運転致死傷罪と併合罪(刑法45条)となり、18年以下の懲役まで加重される(刑法47条)ことになります。

6 まとめ
以上が交通事故を起こしたときに発生する主な刑事責任になります。死傷者を出してしまった場合、少なくとも過失運転致死傷罪に問われることは覚悟しなければいけませんが、それ以上に罪を重くしないために大事なことをまとめると次のようになるかと思います。
①無免許運転、飲酒運転、危険運転はしない
これは事故以前の前提条件というべきことですが、無免許運転、飲酒運転、危険運転は絶対にしてはいけません。これらの行為は重大な事故を引き起こすリスクが高く、これらの行為により事故を起こした場合には厳重に処罰されることになります。
②その場から逃げない
事故を起こしてしまった場合、焦りや恐怖でその場から逃げ出してしまいたくなるかもしれません。しかし、絶対に逃げてはいけません。死傷者がいるにも関わらず逃げてしまうと、過失運転致死傷罪だけでなく負傷者の救護と危険防止の措置義務違反、事故報告義務違反も犯してしまうことになります。そしてこれらが併合罪となる結果、15年以下の懲役まで刑が加重されることになってしまいます。また、情状的にも心証が悪くなり刑が重くなる可能性が高くなります。
③飲酒運転をしてしまった場合、飲酒運転の発覚を免れるための工作をしない
通常自分の犯罪の証拠を隠滅することは犯罪になりません(刑法104条)。証拠を隠滅するなと法が命じても、適法に行動することが期待できないからです。
しかし、飲酒運転に関しては上述のとおり過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が用意されています。アルコールの影響の程度によっては過失運転致死傷罪のみで済む可能性がありますが、アルコールの影響が発覚するのを免れようと工作をすることで却って刑が重くなってしまいます。
    
第3 おわりに

今回は交通事故の加害者の刑事責任について解説してみました。自動車を運転する以上、加害者になってしまうリスクは避けられません。この記事を読んで、改めて気を引き締めて運転していただけたら何よりです。
また、もし事故を起こしてしまった場合には是非、山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィスにご相談ください。刑事事件を数多く扱っている弁護士が在籍していますので、ご依頼者様をしっかりサポートいたします。

一人で悩まず、新たな一歩を私たちと。

弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所福岡オフィス
弁護士 坪井智之

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